全年齢小説本 / A6 / 40ページくらい
500円
最終回後のバンジョカです。真面目なつもりですがギャグかもしれない。めちゃくちゃだ!
真実の愛のキスで目覚めるタイプのバンジョカです(?)
サンプルは↓です。なんとなくつながってるようにも読めますが実際はつながってません。
目が覚めた。 俺はどこかの硬すぎでも柔らかすぎでもない所に足を真っ直ぐにして仰向けに寝ているようだった。 おあつらえ向けに、両手は組んだ状態でみぞおちあたりにポンと置かれているらしい。 で、自分のことなのになんで、ようだ、とか、らしい、とかボンヤリした表現なのかって?まあ落ち着けよ。目は覚めてるんだが目が開かねェんだ。 だから、確認できねェんだよ。実は縦になってるかもしれないし、ぐるぐる回されて重力を感じてるだけなのかもしれない。そもそもこの敷布団なのかベッドなのかが安全なところにあるとも限らない。 海の上にあって寝返りうったら最期かもしれないし、炎に巻かれているかもしれない。もしかしたらライオンの檻の中だったりしてな。 なんて言っているが(言う、って言葉選んだのは便宜上だ。口も動かないから俺のこれは全部心の声だ)海の上でも炎でもないことはわかる。肌の感覚はあるからだ。 海風のようなものも感じないし、揺れもない。炎の熱さも感じない。ライオンがいる気配も感じないが、息を潜めてそれに俺が気づいてないなら檻の中かもしれない。 たまに風が通るが、少しひんやりしていて静かな場所に俺は寝ている。なんと、胸のところまでゴワゴワした毛らしきものもかけられている。それくらいは分かった。 あー、腹減った。つーか頭痛ェな。これはシンプルに酒のせい。 俺は一通り今の状況を確認した。とにかく体が動かない。動かないというか、動かせない。動けるし力も入れているのに何かの力で押さえつけられている、というよりは、筋肉への命令が伝わってないような、そんな感じだ。 だから動けないだけで音とか、皮膚の感覚はある。俺の周りの光の変化も、まぶた越しだが分かった。強い光を感じないあたり、室内の、窓辺でもないどこかだと思う。 匂いもわかる。少しカビ臭くて埃っぽい。あと何かの腐敗臭。 $\overset {\tiny \textsf{嗅ぎなれた}}{\footnotesize\textsf{52でもジョーカーでもない頃によく嗅いだ}}$臭いがする。 そうだとすればここは舗装された綺麗な表通りのビジネスホテルなんかでは確実にない。廃墟という名前をつけるにもおこがまし過ぎる、行政に捨てられ諦められたクズどものたまり場、といったところだろう。 そうだとしたら早くこんなところからはおさらばしたい。治安もクソもない場所に無抵抗な人間が転がっていたら命の保証はない。もっと安全な場所に移動するか体が動くようにするか、早いとこ対処しねェと。 目を閉じているが意識はある、という状態のまま、目を閉じているだけでも多少脳は休まるからね、とリヒトが言っていたことを俺はボンヤリと思い出していた。今回の場合は目が閉じていたって脳ミソフル回転なわけだ。休まっているような自覚はない。 で、こうなった理由だが……正直、ちゃんと覚えてねェ。おぼろげな最後の記憶をたぐり寄せてみれば、 「運命の相手のキスで目覚める。どう?簡単でしょ?子供だって知っているわ。眠りの呪いはいつだって真実の愛のキスで解ける、ってね」 それは見知らぬ女の勝ち誇った声と顔だった。
それから、どういうわけかここに寝かされているらしい。浅草の木造建築特有の匂いもしないから、あの女によってどこかに運ばれたんだろう。 それにしても、真実の愛、ね。そう考えて、一番に頭に浮かんだのは緑色の瞳だった。夜でもひかっているような、色素のない髪と髭、耳の上から生える一対の黒い角。レオナルド・バーンズ。 こんなときまでジジィの顔が浮かんじまう自分の人生と性分とを恨む。 例えばヒモやってたときの彼女とか、もしかしたら俺を愛してくれていたのかもしれない相手は何人かいるんだと思う。だが、そういう顔はぼんやりとしてなんとなくしか思い出せないのに、ジジィの顔だけはやたら鮮明に思い出せる。出会ったときの、まだ両目揃ってる顔も、俺が影を抜ける直前の顔も、十二年後、皇王庁の地下で再会したときの顔も、府中で$\overset {\tiny \textsf{アドラ}}{\footnotesize\textsf{異界}}$に引きずり込まれるときの顔も、再生後、ドッペルゲンガーの影響が残ったことで角が生えた顔も。 だが流石にバーンズがこんなところまで来ることはないし、何かの奇跡でバーンズがここに来たとして、俺にキスをするなんて思えない。 あー、煙草吸いてェな。煙草を押し込んであるはずのポケットをまさぐろうとして、俺は体が動かないことを再認識する。 世界の再生後、特に目的も目標もなかった俺はこうしてのらりくらり適当に生きている。一方、英雄隊のナントカ顧問とやらになったらしいお忙しいレオナルド・バーンズ元大隊長様とは会っていない。むしろ、避けるように過ごしてきた。 つまり、バーンズに期待するだけ無駄だ。 これからどうしような。いや、どうするって言っても助けも求められないし、この状況を知ってるのは賭場の兄ちゃんたちとあの女だけだ。俺を助ける義理はない。自分でどうにか打開しないといけないわけだが、だからといって何もできない。 詰みだ詰み。The End.ざんねん!俺の人生はこれでおわってしまった!That's all folks!めでたしめでたし!……いや、なんもめでたくねェわ。どうせ何もできることがないなら少しでも長く生きてやる。俺はそう思って、体力温存のために眠る方向に意識を移した。目が開けらんないんだからずっと眠ってるだろって?目閉じただけのときと寝てるときって違うだろ?それだよそれ。
誰かが、来る。しかも急いでいる。俺の命(タマ)取りにきたような奴らじゃないといいが、確かめるすべはない。俺はこうしてお上品に眠っていることしかできないからだ。 そのあとに、衝撃。扉が吹っ飛んでても驚かないような大きな音がした。わずかに鉄扉が軋んだような音が混じっている。やっぱ扉、吹っ飛んでんな。 唐突な闖入者のおかげで風の流れと匂いが変わった。換気してくれてサンキュ、と思うと同時に砂埃が舞う。口も目も開いてなくてよかったぜ。 「52!」 誰だ、と思う間もなく、声とともに駆け寄る靴音が聞こえた。 嘘、だろ。来るわけない。つーかどうやってここを知ったんだよ。そもそも俺が消えたこと自体、感知しようもないくせに。 俺のことを飽きずに52と呼び続けるこの声。一番来てほしくなかった。でも、一番来てほしかった相手。 ……バーンズだ。 「52、無事か?」 いや無事なわけねェだろ。絶賛永遠の眠り中だわ。 バーンズは俺の脈をとって呼吸を確認して体温を確認し、かかっていた布を取り払い、服を脱がせ始めた。 何のつもりだよ、と思ったが、そういう男だ。 「出血もなさそうか」 服を脱がされたのにエロティックなこともロマンティックなこともなく、バーンズはただただ俺に外傷がないことを確認して、いそいそと服を戻した。 少し緊張の残った安堵の息をバーンズが漏らす。 「……気を失っているだけか」 その優しい声と吐息を思ったよりも間近に感じて、意味もなく縋りたくなった。バーンズ。来てくれた。なんで来たんだよ。それでも、体は動かなくてもどかしい。 バーンズの太い指がつぅ、と頬を撫でて、それから手のひらが頬を包んだ。……もしかして、する気か?やめろ、あんたじゃ無理だよ。だって、あんたは大事なところで俺の手を取らない。簡単に踏み込んでくるのにちっとも掴もうとしないし、こっちが掴もうとしたらすぐ距離を取る。俺のこと気にしてるふりして、最後の一線を後生大事に守りやがる。 だから、運命だなんて思いたくない。そうじゃなかったときに傷つきたくないから。 「52」 手のひらが離れていく。そこにあったぬくもりが失われていく。なんでそんなに、俺を呼ぶ声が優しいんだよ。 上半身、首のところあたりまで覆うなにかが身体にかけられる。それがバーンズが着ていたジャケットだろうと気づくのに、時間はかからなかった。わずかに鼻をくすぐる匂いは嘘をつかない。 なんとなく感傷的な気持ちになっていたら、急に背中と膝の下に何かが差し込まれた。 ……腕? 「移動するぞ、」 バーンズが短くそう言ったあと、ふわりと俺の身体が浮く。嘘だろ。抱き上げられた。 いわゆるお姫様抱っこってやつだ。掴まれないことと浮遊感に一瞬恐怖したが、バーンズは自分の胸元に俺を倒れ込ませるようにしてなんとかバランスを取ったらしい。 魂の強さがパワーに直結するこの世界で、拳撃一発で大木を折り倒したという腕力の為せるワザか。一度体の位置が決まってしまえばめちゃくちゃ安定していた。 いや、安定どころの騒ぎではない。むしろ、これは、 ……心地良い。 「52、少し揺れるぞ」 聞こえてるか聞こえてないか分からない相手に対して声をかける律儀さが面白くもありがたくもある。疑っていたわけではないが、本当にバーンズなんだな、と実感のようなものを持つ。 バーンズは俺を抱えたまま外に出たらしい。閉じたまぶた越しに強い光と、乾いた風を肌で感じる。助かったんだな、と呑気なことを思った。